遺産相続で泣き寝入りしないためにできること|使い込み調査と注意点

2024年11月12日
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遺産相続で泣き寝入りしないためにできること|使い込み調査と注意点

遺産相続のトラブルの中でも、遺産の使い込みが発覚したケースでは、証拠が乏しいことなどから「泣き寝入りするしかない」と考える方が少なくありません。しかし、このようなケースでも法律に基づいた手続きを進めることで、公平な遺産分割を目指すことは可能です。

鶴岡市の方が利用する鶴岡支部含む、山形地方裁判所では、令和4年に79件の遺産分割のトラブルが持ち込まれました。家庭裁判所での解決は最終手段とお感じになる方は少なくないようです。しかし、遺産の使い込みなど公平な相続を阻害するような事情があるケースでは、裁判所を利用する必要があるでしょう。

本コラムでは、遺産相続で泣き寝入りしないためにできることを、ベリーベスト法律事務所鶴岡オフィスの弁護士が解説します。


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1、相続トラブルで泣き寝入りしがちな6つの具体例

相続で起こりがちな「泣き寝入りするポイント」について解説します。

  1. (1)遺産が使い込まれていた

    遺産が不正に使い込まれていた場合、相続人が受け取ることができる相続財産が減少するのは明らかです。

    しかし、使い込んだ当人が事実を認めることは少なく、被相続人が亡くなっている状況では事実関係の確認が難しいことから、泣き寝入りするケースもあるでしょう。

  2. (2)一部の相続人に生前贈与されていた

    被相続人が生前に一部の相続人に対して多額の贈与を行っていた場合、相続できる財産が減少することになるので、他の相続人は不公平と感じられるでしょう。

    ただし、親子や兄弟姉妹などの親族は相互に扶養義務があり、通常必要と認められる生活費の援助であれば不公平とはいえないことから、その線引きが難しいケースも少なくありません。

  3. (3)遺産が隠されていた

    遺産が意図的に隠されていた場合、公平な遺産分割ができないのは明らかです。意図的に遺産隠しをされていたわけではなくても、遺産のすべてが明らかになっているのかは、相続では常に不安に感じられるポイントといえるでしょう。

  4. (4)一部の相続人だけで遺産分割協議が進められた

    遺言がない場合は、相続人全員の合意に至るまで遺産分割協議をする必要があります。

    しかし、一部の相続人だけで話し合いが進められて、出来上がった遺産分割協議書に署名と押印を求められたり、相続放棄をすすめられたりするケースもあるようです。このような要求に応じなければいけないのか、悩まれるケースもあるでしょう。

  5. (5)遺言で一部の相続人が多額の財産を受け取った

    被相続人が遺言書を作成していた場合、遺言の内容に従って遺産を分配するのが原則です。その内容によっては、ほとんど遺産を受け取ることができないこともあります。

  6. (6)一部の相続人が生命保険金や死亡退職金を受け取った

    被相続人の死亡により支払われる生命保険金や退職金は、受取人が指定されている場合、受取人の固有の財産になると考えられています(ただし、相続税などの課税対象になる可能性はあります)。

    生命保険金などを受け取った相続人が、さらに遺産を受け取ることに釈然としないこともあるでしょう。

2、遺産相続で泣き寝入りを防ぐためにできる4つのこと

遺産相続で泣き寝入りしないための方法を解説します。

  1. (1)相続財産の調査を念入りに行う

    被相続人の財産の調査は、遺産分割の対象となる遺産を把握することだけではなく、相続人が負担ことになる被相続人の借金や、生前贈与や使い込みがないかを確認する意味でも重要なプロセスです。

    相続財産の調査は、故人の契約書などの書類などを手掛かりに地道に調べるほかなく、時間と労力を要する作業になります。

    相続が発生したら、できるだけ早い段階から他の相続人に任せきりにすることなく、相続財産の調査に取りかかることをおすすめします

  2. (2)主張できる権利を理解しておく

    相続で泣き寝入りをしないために理解しておきたい3つのルールを解説します。

    ① 遺留分侵害額請求権
    遺留分とは、遺言の内容などに関わらず、遺産から一定割合の相続が認められる権利のことです。
    遺留分の権利がある相続人と遺留分の割合は以下のとおりです。

    • 遺留分権利者:被相続人の配偶者、子ども、直系尊属(父母や祖父母など)
    • 遺留分の割合:直系尊属のみが相続人になる場合は法定相続分の「3分の1」、その他の場合は法定相続分の「2分の1」


    遺言や生前贈与により、遺留分に満たない遺産しか受け取ることができなかった遺留分がある相続人は、遺産などを多く受け取った人に金銭による補償を求めることができます。

    ただし、この請求権は、相続が開始して遺留分を侵害する贈与や遺言があることを知った時から1年が経過すると時効により消滅するので注意が必要です。相続が開始してから10年経過した場合も請求権が消滅します。

    ② 特別受益
    特別受益とは、一部の相続人が生前贈与などにより被相続人から得た財産上の利益を遺産分割に反映させて、公平な相続を図るルールです。

    特別受益の対象になるのは、被相続人が亡くなる前の10年以内になされた贈与で、以下のような例のものです。

    • 婚姻や養子縁組のための持参金など
    • 扶養義務の範囲を超える生活費、学費、車などの購入資金など
    • 事業の開業資金など


    扶養義務とは、直系血族(親子関係で連なる親族)と兄弟姉妹、夫婦の間で自立した生活を送るために援助する義務のことをいいます。

    特別受益に該当する贈与がある場合は、その贈与の額を遺産に持ち戻して各相続人の具体的相続分を算定し、そこから贈与を受けた相続人から特別受益の額を差し引いて調整します。

    なお、一部の相続人が受け取った生命保険金や死亡退職金も、遺産の総額に比べて高額である場合などには、例外的に特別受益に準じた調整が認められることもあります。

    ③ 寄与分
    被相続人の事業の手伝いや療養介護に尽力した相続人は、その寄与行為に応じて相続分に上乗せしてもらえるルールです。

    寄与分が認められるのは、「特別の寄与」があることが必要で、単に療養介護したり、生活費を援助したりしていたようなケースでは認められません。

    なお、相続人以外の親族による特別の寄与といえる寄与行為がある場合は、相続人に特別寄与料を請求できる制度もあります。

  3. (3)家庭裁判所の調停手続を利用する

    相続人同士の話し合いがうまくいかない、手続きに協力しない相続人がいるなどのトラブルが生じた場合は、家庭裁判所の調停手続を利用することも選択肢となります。

    調停は、中立的な立場の調停委員が間に入り、双方の合意に基づく解決を目指す手続きですが、調停がまとまらない場合は、裁判所が判断する審判手続に移行します。

    相続手続の中には、相続放棄、相続税の申告と納税、遺留分侵害額請求権など期限や時効の定めがある手続きもあります。トラブルで相続手続が進められない場合は、適切なタイミングで調停申し立てを検討するようにしましょう。

  4. (4)弁護士のサポートを受ける

    相続手続をスムーズに進めたい場合やトラブルが発生した場合は、できるだけ早く弁護士のサポートを受けることをおすすめします

    弁護士は手続きに関するアドバイスをしたり、代理人として交渉をしたりすることも可能です。また、調停や裁判など裁判所の手続きを利用する場合には、弁護士に委任して手続きを任せることもできます。

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3、使い込まれた遺産を回収する方法と注意点

遺産が使い込まれていた場合の対処法や注意点を解説します。

  1. (1)相手の主張に応じて証拠を集める必要がある

    遺産の使い込みと思われる形跡が見つかった場合、行為者をつきとめて事情を確認する必要があります。

    使い込みと判断するためには、被相続人の財産が無断で個人の利益のために使われたことを証明しなければなりません。相手が使い込みを認めるケースはそれほど多くなく、「被相続人のために使った」とか「被相続人から贈与された」などと弁解されることもあります。

    相手の弁解を受けて、以下の方法で回収を図ることが考えられます。

    • 使い込み:民事の返還請求
    • 贈与:遺産分割で特別受益の主張


    いずれの場合でも、相手が事実を否定して争う場合は、民事裁判や遺産分割調停により解決する必要があります。

    裁判や調停では、返還を請求する側が使い込みの事実などを証拠により証明する必要があるので、事前の証拠の収集も重要です

  2. (2)使い込んだ遺産の返還請求の注意点

    使い込まれた遺産を民事手続で返還を求める場合は、「不当利得返還請求」か「不法行為による損害賠償請求」をすることが考えられます。

    不当利得返還請求とは、法律上の原因がなく他人に損失を与えて利益を得た場合に、その利益の返還を求める請求権です。

    不法行為による損害賠償請求は、違法な行為によって他人に損害を与えた場合に、その損害の賠償を求める請求権です。

    遺産の使い込みは、「不当利得」にも「不法行為」にも該当すると考えられますが、主張、立証すべき事実が異なるので、状況に応じて主張の構成を選択することになります。

    これらの請求権は、時効の期間に以下のような違いがあるので注意が必要です。

    • 不当利得返還請求の時効:使い込みが発覚した日から5年または使い込みの日から10年(いずれか早いほう)
    • 不法行為による損害賠償請求の時効:使い込みが発覚した日から3年または使い込みの日から20年(同上)


    なお、これらの請求が認められたとしても、使い込んだ財産を費消して返還する資力がない場合は、実際に返還してもらえないこともあります。

4、遺産相続で泣き寝入りしないための遺産分割協議の進め方

遺産分割協議は、遺言書がない場合に誰がどの財産を相続するのかを相続人全員の話し合いにより決める手続きです。

遺産分割で泣き寝入りしないためにも、以下の4つのポイントを意識しましょう。

  1. (1)共同相続人とコミュニケーションを図る

    遺産分割協議は、共同相続人全員の合意がなければ成立しません。そのため、他の相続人とのコミュニケーションを図って、お互いに納得のいく解決を目指すことが重要です。一部の相続人だけで遺産分割協議が進められている場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用することも考えられます。

  2. (2)遺産分割協議書を作成する

    合意が成立したら、相続人全員の認識が一致しているか確認の意味でも遺産分割協議書を作成しましょう。遺産分割協議書は、遺産の名義変更(預貯金の払い戻しや不動産登記など)や、相続税の申告手続でも必要になります。

  3. (3)使い込みがある場合もできるだけ話し合いによる解決を目指す

    どのように遺産分割するのかは、法定相続分による相続割合が一応の目安になりますが、相続人全員の合意があれば、自由に相続方法を決めることができます。使い込みがあった場合でも、相続人全員の合意によって使い込み分を考慮した調整することも可能です。

    遺産分割調停や民事裁判で、特別受益や不当利得返還請求などを主張する場合には、証拠を収集する必要がありますが、被相続人が亡くなっている状況ではそれが難しいことも少なくありません。

    そのため、相続人同士の話し合いで円満に解決できるのであれば、それに越したことはないでしょう。

  4. (4)早めに弁護士のサポートを受ける

    公平な遺産分割を目指す場合、早期に相続トラブルの解決実績がある弁護士に相談することが重要です。特に、使い込みなどの問題が発生している場合、当事者間での合意が難しく、問題が長引く可能性があります。

    弁護士は適切な解決策を提案し、必要な証拠を集めて共同相続人を説得することで、問題の早期解決をサポートします。

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5、まとめ

相続で遺産の使い込みや生前贈与などがある場合、泣き寝入りをせずに公平な相続を実現するためには、一定の法律知識が必要です。

また、使い込みの回収や、最低限の相続分が保障される遺留分に関する請求権は、時効により消滅することもあるので、早期に証拠収集などの対応をする必要があります。円満かつ公平な遺産分割したい場合も、使い込まれた遺産を取り戻したい場合も、できるだけ早く弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 鶴岡オフィスには相続問題についての知見が豊富な弁護士が所属しています。お客さまの要望を踏まえて公平な遺産分割を実現できるようサポートしますので、遺産相続でお悩みの際は、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています